よしなしごと

日々を淡々と

はてしない物語 ミヒャエルエンデ



はてしない物語
ミヒャエル・エンデ



装丁がすごく美しい。

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赤がね色。
実はこの色が作中に頻繁に出てくる。
主人公が手に入れた本は、これとそっくり同じものだった。




物語のあらすじ(ネタバレを含む)


主人公のバスチアン・バルタザール・ブックスは
学校では同級生にいじめられている。
家では父と2人で暮らし。
母が他界してからというもの、
父は虚ろでバスチアンには無関心だった。

ある時、バスチアンは古書店に入り
店主のコレアンダー氏が持っていた本を盗んで、学校の屋根裏でその本を読んだ。

本の名前は『はてしない物語』。
この装丁と同じ赤がね色の本だった。


バスチアンが手に取った『はてしない物語』は
女王幼ごころの君が統治する
ファンタジーエン国の物語だった。
統治と言っても、権力を行使せず。
何も裁かず、判断しない。
攻めることも守ることもなかった。
美醜、善悪、賢愚、すべてみな
幼ごころの君が存在してこその命。
ファンタジーエン国のあらゆる命の中心の存在だ。


そのファンタジーエンに危機が迫っていた。
"虚無"が国中を飲み込んでいた。
"虚無" に飲み込まれるとファンタジーエンの国の者は人間の世界へ行く。
その中で「虚偽(いつわり)」に変化してしまい、人々を迷わす。
女王幼ごころの君も重い病に臥せていた。

女王の使者より命を受けた少年アトレーユは旅に出る。
「大いなる探索の旅」として、女王幼心の君とファンタジーエンを救う手立てがあるのか…
それを探索しに、彼は村を後にする。
幸いの白い竜フッフールも旅に加わる。
その物語を読んでいくと、バスチアンはどんどんファンタジーエンに近づいていった。


さすらいの古老は、幼心の君と対極に位置しながら、同じ存在。
ファンタジーエンに起こった出来事を書き連ねる。
それは過去のものとなって、物語を形づくる。

 
バスチアンは物語の中に文字通り「入り込む」。
さすらいの古老はバスチアンのことを細かく書き記した。
彼は物語に描写されながら、物語の一部となった。
そして、人の子バスチアンは幼心の君と共にファンタジーエンを名づけて回った。

ファンタジーエンの中に入ると、容貌はパッとしない太っちょの少年から
異国の王子の様相に変わり力がみなぎった。
だけど、中身のバスチアンはバスチアンのままであった。


物語というと、主人公は勇敢で、仲間たちがたくさん出来て…
というのがセオリーだと思うのですが、
バスチアンはそんなことがない。
生々しい人間の子どものままだ。
「汝の 欲する ことを なせ」
という言葉のまま、その想像力/創造力をあらん限り暴走させる。
そして彼は元の人間の世界を忘れていく。
自分が学校に通う子どもで、臆病であったことも忘れていく。

色のある死・ライオンのグラオーグラマーンは
「汝の 欲する ことを なせ」の意味を
「真に欲することをすべきだ」と捉えよとバスチアンに言う。

「(真に欲するものを見つけるには)
この上ない誠実さと細心の注意がなければならない。この道ほど迷ってしまいやすいものはない。」


迷いながら、間違いながら、
バスチアンは自身の物語を進めていく。
彼は最後、ファンタジーエンの帝王となろうとする。
かつて惹かれた物語の主人公、アイトレーユと討ちあって。


ファンタジーエンから戻れない人もいる。
かつて「帝王」になった者たちだ。
だけど、バスチアンは人間の世界へ戻ってきた。
彼はファンタジーエンに広げた全ての物語を、かつて惹かれた主人公アイトレーユに託して人間の世界へ戻ってきた。




感想



物語の中で幼心の君は、
ファンタジーエンから人間の世界へ戻った者は

「以前は平凡でつまらない、と思っていた世界に突然、驚きを見、神秘を感じるようになる。
ファンタジーエンと人間の世界は
壊し合うことも出来るし、癒し合うことも出来る。」


と、言っていた。


この本に限らず、読了後、世界がちょっと違って見えるようになる…
そんな本があると思う。
久しぶりに惹かれた本だった。
答えは書いてあったけど、
(バスチアンが人間の世界へ帰る時に、見つけたものだった)
ただその一点に物語を集約することなく、
色んな余白を添えて、人間の世界、
私たちが生きている世界へ返してくれる。
そんな素晴らしい本だった。



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