よしなしごと

日々を淡々と

『雪と珊瑚と』梨木香歩の感想

物語のあらすじ


珊瑚は離婚し、21歳にして娘・雪を1人で育てることになった。
「赤ちゃん、預かります」の貼り紙を出す、藪内くららと出会う。以前、修道女をしていた、くららは、不思議な生活の知恵をもった魅力的な人物だった。
以前勤めていたパン屋で働き始めるも、パン屋は閉店をすることになっていた。
母娘、これからどう生きていこう、と考えると「店を開く」という選択肢が見えてきた。
くららの甥・貴行は無農薬野菜をつくる農家。そちらから紹介された、喫茶店・カルテットの外村に「商売とは」「お金を稼ぐとは」の【現実】を学びつつ、
自身の「人の生活を支えるような食べものを提供したい」の【理想】と折り合っていく。色んな人の介在で、創業計画を提出し、金融機関から事業資金を借り入れた。
パン屋さんでアルバイトをしていた美大生・由岐と壁塗りサークルの面々の協力もあり、店の改装を済ませ、総菜の名も定まりオープンとなった。
店の名前は「雪と珊瑚」に決めた。
そこから、疎遠になっていた、元夫・泰司、泰司の両親、自分の母とも交流が始まっていく。



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見どころ

店を通じて起こる、珊瑚の気持ちの変化です。

珊瑚は母子家庭という「施しを受ける側」になることが多い立場で、施しする側への「嫉妬」「反感」「屈辱」のような気持ちがあることを発見する。
真面目な性格はある人から見れば
『私こんなにもまじめに生きているのよ』と体中で叫んでいるようなポーズをとるだけで、実際に世間がころころ騙されていく、私はそばで見ていて不愉快でたまりませんでした。   …『疲れた勤め人に力の出るお総菜を』?いいかげんにしてください。          『雪と珊瑚と』p294〜295より引用

という手紙にもなった。

指摘は違うところも多々あるけれど、葛藤の核心をついていた。

珊瑚は自分の店で仕込みを終えると、

コーヒーを淹れながら一息ついた。

誰かのための居場所、じゃなくて、

自分がそういう場所が欲しかったのだ。


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全体を通しての感想


珊瑚の気持ちへの繊細な描写が、とても印象的でした。娘の誕生、創業資金の融資、信仰の告白、それらに立ち会った時の珊瑚の心の動きがとても鮮明に描かれていました。
理想と現実の折り合い。
それを超えたところにあった自分自身の気持ち。
読後は自分自身の内面を深く見つめた後のような気持ちになっていました。